ゲストの級長さんは、商社系におつとめの堅い方ですが、 スタジオミュージシャンの経歴もお持ちの バリバリのベーシストでもあります。 音楽活動を再開されたというので、 その方面のコラムをお願いしました。(kannos)
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低音遊戯装置(1)
by 級長
Vol.1 タイトル: ♪ソ・ソラ・ソラソラ♪
え〜 世の中にはバカな奴も居るもんで、みんながヴォーカルだぁ、ギターユニットだぁ、騒いでいる中、そいつだけは何故か「低い音」に耳が傾いちまうってぇ具合。 別に高い音が聞こえない訳ゃないし、歌だって嫌いじゃないんですが、不思議と 「低いほう低いほう」へと耳がいっちまう。 しまいにゃ、居酒屋のBGMでかかったイエスタデイワンスモア(カーペンターズ)の伴奏で「ん?、オイラがガキん時と違うじゃねぇか! さてはピアノの左手(低音部)だけ差し替えやがったな?!」などと叫ぶに到っては、飲み友達からも「お前さん、ちっとオカシイよ。 一度お医者で診てもらっておいでよ。」とキ○ガイ扱いされる始末。 もうこうなるってぇと、本人もおさまらない。 「おめぇら、気になんねぇのか?! この低い音がちっとでもズレると按配悪りぃじゃぁねぇか!」 とアバレだし、只でさえ少ない友達をもっと減らしちまうってぇ具合。 かわいそうですなぁ〜 こういう奴ぁ・・・ えっ?何? オレもそうだ? おっと!こいつぁ失礼いたしました。 いえね、何を隠そうアタシも気になるタチなんで。へへへ・・・
ってなワケで、今回からちょいとばかり低音話にお付き合い願います。 え〜っと、今回のお題は?っと・・・ 「ソ・ソラ・ソラソラ」ですな。
これ見て、「あっ!あの曲ね!」とひらめいたお方、アナタは少し傾き過ぎ。 まぁこれ、あの童謡「ウサギのダンス」なんですわ。 とにかくこの曲、とてもポピュラーなナンバーなんですが原曲からしてなんと「シャッフル」のリズム。三連符の真中抜き、つまり「タッタ、タッタ・・・」とハネるビートなんですね。 その侮れない「ウサギのダンス」、なんとあの山下洋輔さんトリオがライブ演奏しとります! しかもas:坂田明、Dr:小山章太という強力メンバー! これでドライブしないわけがありません! ご存知のように山下洋輔さんは日本が世界に誇る「フリージャズ」ミュージシャン。 当然ながら一筋縄の演奏ではありません。 冒頭の「ソ・ソラ・ソラソラ、ウサギの」までは皆さんご存知のメロディーなんですが その後に続く「ダンス〜」のところがナント全て同じ音程!(確か低いEだったかな?) そして、「タラッタ・ラッタラッタ・ラッタラッタ」につづく「ラッタラー」の部分がまたまた 全て同じ音程! つまり、偶数小節の3、4拍が全て同じ音程で弾かれているワケなんですよねー これって、実際に歌ってみれば分かるんですが、物凄く不自然。 通常、童謡などの憶えやすいメロディー(4/4拍子)は、ある程度メロディーの反復が基本になっていて、主に偶数小節の後半で一応オチ(?)のようなものがあり、何がしかの安定感とともに主旋律のリフレインに入るというものが殆どです。 しかし、今回の場合はその「安定感」があるべき場所に全く外れたキーでもない音が、しかも同音程でブチ込まれているワケですから、聴いている方は安息感が得られずにテンションが上がりっ放しになるという寸法です。 しかも、これを猛烈に速いスピードで一気に駆け抜け(演奏)て行くんですから そのアウトな迫力たるや絶大! そして、そのアウトなテーマの最終音をオクターブ上まで絞り上げて、そのまま雄叫びをあげる 坂田明さんのアルトサックス・ソロへと一気にナダレ込みます。 (う〜ん、いいなぁ、背筋が凍りつくなぁ〜 この原稿を書いていても鳥肌が立ってきます) 後は、もう皆さんご存知の山下洋輔さんワールド。トリオの打々発止の壮絶なバトルを経て 見事なチームワークで「チョン!」と拍子木を打ったがごとくピタリと決まるエンディング! 思わず「いよっ! 山下屋!」っと掛声をかけたくなります。
ふぅ〜・・・ 何でしたっけ? そうそう、今回何で「低音遊戯装置」の第一回目でこの演奏を取り上げたかというと、 ズバリ「緊張感」なんですよ。 独断と偏見を恐れずに書かせてもらうと、上述の「あえて主旋律をハズしたアウトなメロディー」も さることながら、一連の山下洋輔さんトリオの演奏のテンションを異常なまでに高めているのは、 彼らの演奏編成に「ベースが無いから」だと思うのです。
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低音遊戯装置(2)
by 級長
Vol.2 タイトル: ♪ソ・ソラ・ソラソラ♪(その2)
<前回までのあらすじ> 道楽(低音好き)が高じて長屋を追い出された八五郎。 行く当ても無くフラフラとさまよい歩くうちに両国橋のたもとにたどり着いた。 すれ違った町人風の男になけなしの胴巻き財布をスラれた事に気づいた時には もういけない。 生きる気力もなくし、すぅ〜と橋の欄干を越えるってぇと・・・ ・・・おっと、これじゃ「鼠の穴」んなっちまう!
えぇ〜っと、何でしたっけ? あ、そうそう何故、山下洋輔トリオの演奏があれ程までに 緊張感が高いのか?それは、彼らの演奏編成に「ベース」が無いからではないか? というところまできたんでしたよね。
ご存知の方も多いと思いますが、ある時期の山下洋輔さんグループは「サックス、ピアノ、ドラム」 のトリオ編成で、ベース(コントラバス)が存在していません。
一般的に、ベース(低音パート)は、現在聞く事が出来る殆どの音楽(クラシックからポピュラー、 ジャズまで)には必ず組み込まれている楽器であり、概念です。 ベース音(ルート音とも言いますが)の上に様々な音が積み重なってハーモニー(和音)となり、 そのハーモニーの上をメロディー(主旋律)が自由に遊ぶ・・・ そして曲を引っ張っていくリズム自体も、ベースとドラム(あるいはコントラバス、チェロと打楽器) が無くては有り得ないという事は、今更言うまでも無いでしょう。
しかし、普段意識はしていないんですが、このベース(低音)が無くなるとトタンに調性が失われ、 「えっ? 今なにをやっているの?」という状態になってしまいます。 例えば、ある曲を友達に伝えたくて口で「〜♪〜♪」と歌ってみても、周りの友達にはサッパリ 伝わらず、恥をかく・・・なんて経験、誰にでもありますよね? あれも歌っているのが「メロディー(主旋律)」だけでベースが無い為、曲の調性(長調、短調)や リズムが伝わっていないのが第一の原因です。 (ベースを基調としたコード(和音、ハーモニー)が無いというのも第二の大きな原因) それから、遊園地や海水浴場なんかで、オンボロスピーカーから聞こえてくるBGMが何とはなしに 「物悲しい」のも、拡声器的なスピーカーでは低音再生能力に限界があり、「低音部スカスカ状態」で、 メロディーやハーモニーが定まらないフワフワした状態になってしまうからだと思います。 実は、このフワフワ状態に緊張感の鍵があるのです・・・
そう!つまり、この「フワフワした状態」は調性やリズムが安定していないので、演奏者の意図的な コントロールによりどの瞬間にでも「豹変可能」であり、「終息可能」であり、「爆発可能」であるのです。 山下洋輔さん達は、ここを見事にコントロールし、聴衆を巻き込んで縦横無尽に音の世界をアバレ回っていたんですね。
低音部が無いというのは、非常に危険な状態であると同時に、とても自由な可能性を秘めているという事なんです。 だって、弾き手のコントロール次第で聴衆を「メジャーからマイナー、セブンスからマイナー・セブンス・ フラットファイブ」と、自由自在に操れるわけなんですから。 ここのところに気が付くと山下洋輔さんトリオの演奏の楽しさ、素晴らしさが倍増します! あえて、ベースが無い編成をとって聴衆をも自在にコントロールしてしまう山下洋輔さんトリオ。 凄いですねぇ・・・
「低音遊戯装置」なのに何故か「低音が無い演奏」を紹介してしまいました! (天の邪鬼なんだからー 全く) でも、無くなって初めてその存在感に気が付く事って多いし、重要性も理解出来る事って結構ありますからね。 さて、次回からは低音(ベース)そのものにスポットを当て、いろいろとウンチクをたれてみましょう。 おひまな方は、またお付き合いの程を。
では、お後がよろしいようで・・・
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